駒込ビル中国人不法占拠事件

行政書士事件雑記 行政書士事件簿

 秋風が吹き、黄色い銀杏の葉がパラパラと落ちる頃、トランクルーム設置の件でお世話になったA社長から物件の調査を依頼された。A社長はJR山手線駒込の駅から歩いて行ける場所にテナントビルを保有している。数年前までは中国人が経営する日本語学校に貸していたが今は出てしまい、もう何年もテナントが入らない丸ごと空室の幽霊ビルとなっているようだ。このまま抱えていても維持費がかかるばかりで売却したいとの要望である。最近全く見に行っていないので中がどうなっているかかなり気になるらしい。私はビルよりも駒込付近の探索がしたくてこの仕事を引き受けた。

 船橋から総武線で秋葉原まで、あとは山手線に乗り換えて駒込で下車した。駅前からしてとても都内とは思えないローカルな気配で、薄汚い立ち飲み屋や脂ぎったようなラーメン屋が軒を連ね、雰囲気的には東上野に似ている。しばらくぶらぶら歩くが、私の好きな小洒落たカフェが無く、何となく雑駁な街並みにややがっかりする。それでも気を取り直して目的のビルに向かった。A社長の話では今は無人ビルで、お化け屋敷みたいだから覚悟してくださいと事前に警告されていた。そのため鍵以外に懐中電灯も持参して万全の体制で臨んでいた。ところがいざビルに来てみるとすでに鍵が開いており、全館照明も付いている。中に人もたくさんいてざわざわしている。なんだろう、話が違うと思いながらビルに踏み込んだ。

 部屋に入ると何と黒板の前で中国人の講師が日本語を教えているではないか。生徒は1フロア30人ほどいる。そして驚くことに2階から上のすべてのフロアで中国人向けの日本語授業が行われていたのである。確か日本語学校は家賃不払いで出たと聞いたのだが。

 責任者に詳しく話を聞くとこうであった。日本語学校の中国人経営者はまだビルを借りていた時分にビル入口の鍵の複製を作っていた。その後家賃滞納が続いたため、A社長から賃貸借契約の解除を通告される。困ったこの中国人は「わかりました、出ます。」と返事をして、実のところ合鍵を使ってビルに勝手に入り込み、日本語学校を継続していたのである。つまりは無断使用であった。最も電気や水は使うので、その代金は自前で支払っていたようだ。これは法的には建造物不法侵入にあたる罪である。かなり好立地のビルを数年に渡り家賃タダの無断使用で運営する日本語学校だから経営者は相当荒稼ぎしていたのではないか。私はこの事実を見過ごすことはできないと告げ、その場で携帯電話からA社長を呼び出して中国人経営者と直に話をしてもらうことにした。

 かなりの時間やり取りがあり、電話を切ってから「もうビル入らないね。学校は閉校。」そう言うのであるが、本当のところはどうなのであろう。一応、保有していた合鍵を受け取り、全ての授業を中止して全員にビルから即刻退去して頂くことにした。ぞろぞろと中国人達がビルから出てくる。何だかんだと喋っているが、何を言っているのかまではわからない。私は無人となったビルの玄関をロックし、中国人経営者に再見(ツアイチェン)と言ってわかれた。その後このビルは売却された。

 それにしても賃貸借契約を解除されたテナントで数年に渡り学校を経営する神経がどうも私には理解できない。これから中国人と何かの仕事をコラボするときは、十分注意しなければならないと肝に銘じるのであった。